死者の霊魂
死者の霊魂
神道の倫理は、国内の先祖崇拝に由来する慣習に、無条件に従うという教義ですべて構成されていたことが、読者の皆さんにも明らかになったであろう。
倫理は宗教とは異なるものではなく、宗教は政府と異なるものではなく、政府という言葉はまさに「宗教の問題」を意味していた。
政府の儀式はすべて祈りと犠牲に先立って行われ、社会の最高位の人から最下層の庶民まで、すべての人が伝統の法則に従ったのだ。
従うことは敬虔であり、従わないことは不敬であり、従順の規則は、各個人が所属する共同体の意志によって強制された。
日本の古代道徳は、家庭、地域社会、国家に関する行動規則を細かく守ることで構成されていた。
これらの行動規則は、ほとんどが社会的経験の結果であり、忠実に従っていても悪人であることはほとんど無かった。
目に見えないものへの畏敬の念、権威への敬意、両親への愛情、妻子への優しさ、隣人への優しさ、依存者への優しさ、勤勉さと正確さ、倹約と清潔な生活習慣などが、これらの社会的慣習として義務付けられていた。
現在の日本でも、このような古来からの慣習が生きているのを見ることができる。もはや強制されてはいないが、このような道徳的な戒律に基づいて、日本の文明が進化してきたということで、日本人の中に存在している。
道徳とは、最初は伝統に従うことだけを意味していたが、その後、伝統そのものが真の道徳とみなされるようになった。
このような条件付けから生まれた社会を想像することは、現代人には理解しがたいことだろう。
西欧人の間では、宗教的倫理と社会的倫理は長い間切り離されており、社会的倫理は、信仰の漸進的な弱体化とともに、宗教的倫理よりも必須で重要なものとなっている。
西欧人の間では、宗教的倫理と社会的倫理は長い間切り離されており、社会的倫理は、信仰の漸進的な弱体化とともに、宗教的倫理よりも必須で重要なものとなっている。
ほとんどの西洋人は、人生の中で遅かれ早かれ、十戒を守るだけでは不十分であり、社会的な習慣を破るよりも、静かに戒律のほとんどを破る方が、はるかに危険が少ないことを理解している。
しかし、昔の日本では、倫理と慣習、道徳的要求と社会的義務の区別は許されず、慣習は双方を同一視し、プライバシーが存在しなかったため、どちらかの違反を隠すことは不可能だった。
さらに、不文律の戒律は、わずか十にとどまらず、数百にも及び、少しでも違反すると、失態どころか、罪になると考えられていた。
昔の日本では、自分の家でもその他の場所でも一般の人が好きなように生活することはできなかった。 そして、並外れた人物は常に熱心な扶養家族の監視下にあり、その終わりのない義務は、日本の条約には書かれていない事への違反を非難することだった。
一般的な意見の力で存在のあらゆる行為を規制することができる「宗教」には、キリスト教の教義は必要ない。
初期の道徳的習慣は強制的な習慣でなければならない。
しかし、多くの習慣は、最初は強制されて苦しい思いをして形成されるのだが、一定の繰り返しによって容易になり、最後には自動的になるように、「宗教」や市民権によって何世代にもわたって強制された行為は、最終的にはほとんど本能的なものになる傾向にあるのだ。
神道の影響が素晴らしい成果を上げ、多くの点で切実な賞賛に値する国民的な性格のタイプを進化させたのだ。
日本人の性格に育まれた倫理観は、西洋人のそれとは大きく異なる。
日本人の性格は、必要な社会的要求に適応し、それを守るために発達したものなのだ。
この国民的な道徳性のために、大和魂(やまとだましい)という名前が生まれた。
大和の旧国は初期の天皇の居城であり、比喩的に国全体を意味していた。
大和魂
The Soul Of Old Japan
18世紀から19世紀にかけての偉大な神道学者たちは、良心だけが十分な倫理的指針であるという大胆な主張を行った。
彼らは、日本人の良心の質の高さを、民族の神的な起源の証明とした。
これらの宣言は確かに過去の時代になされた結論だろう。
しかし、日本の社会が進化していく中で、日本人自身が、自分の国や社会に他の人々を受け入れる包容力のある心を持つことの真理を認識している。
すべての地球市民は、鏡をじっくり見て、自分の中に道徳的な羅針盤があることを認識し、その羅針盤を自分の言葉や行動の内在的な指針とすることを歓迎する。
根本的には、(自己愛の強いサイコパスでない限り)誰もが、生い立ちや初期の社会的教化、マズローの欲求階層を満たすために必要なことは何でもするという文脈の中で、善悪を本質的に理解している。
自分の祖先を崇拝する時には、親愛なる亡き祖父や祖母が、厳しい愛情を持って一族を見守り続け、文明社会の規定の社会的慣習や常識的な教義を守ろうとしている事を忘れてはならない。
日本 その解釈の試み
1904初版
パトリック・ラフカディオ・ハーン